老いても変わらない

潰れてしまっため今は無いが、私の父親は部品工場を営んでいた。零細企業のため経営者である父親に休みはなかった、幼い私が工場を見に行っても、仕事で忙しい父親が手を休めることはなかった。
私が受験勉強のために朝早く起きて勉強をしていると、父親が朝早く家を出て行く、夜遅くまで勉強をしていると、父親が夜遅く帰って来る。
物心が付いた時の父親は、寝ている子供を起こしたら悪いと思うのか、朝早く家を出る時は家のカギを静かにかう、夜遅く帰って来た時も家のカギは静かにかう、父親が建てた家なのに。

朝から晩まで働いていも父親の事業は上手く行かず、借金のかたに入れていた工場と自宅は一時他人のものになったのだが、住んでいた自宅だけは私が買い戻した。
仕事が出来なくなった父親は急に老け込み、物忘れも酷くなった。
寝ているとガチャガチャと金属が擦れる音が聞こえたため、玄関を見に行くと、父親が玄関のカギを開けようとしていた。
私、「父さん、そのカギは工場のカギ、ここは家だよ」
老け込んだだけではなく認知が進んでいる父親、翌日も今は無い工場のカギで自宅の玄関を開けようとしていた。
認知が進むと、自宅のカギを無くしてしまった父親、自宅のカギが無いと家に入れないため、私が使っているカギを父親に渡し、私はスペアキーを作った。
父親がカギを失くしてしまうため、自宅のスペアキーは何度も作った、スペアキーを作ってもらっている業者さんに、父親について話すと自宅のカギを交換することを勧められた。
業者さんが私に勧めてくれたのは企業等で使われるセキュリティーの高いカギ、しかも、暗証番号を入力する必要がある。
認知が進む父親に暗証番号入力は無理と思ったのだが、その業者さんの話を聞くと、もしかしたら上手くいくかもと思い、勧められた玄関のカギに交換をしてもらった。
母親や妻、子供からは「お爺ちゃんには無理」と断定されたが、カギを新しいのに変えてからは、父親がカギで問題を起こすことは無くなった。
新しく交換してもらった家のカギは、暗証番号を入力してからカギを差し込むのだが、そのスタイルは父親が営んでいた工場のカギと同じ。
差し込むカギは、父親が営んでいた工場のカギと形状が似ている、入力する暗証番号は父親が営んでいた工場と同じ暗証番号にした。
認知機能が回復することはないが、家を出る時の父親は働いていた時と同じで、家族を起こさないよう静かに鍵をかう。

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